本年度は、熱画像とプロジェクタを組み合わせて用いた2種の実世界指向インタフェースを提案し、実装して、その有用性を評価する被験者実験を行った。 一つ目のシステムは、熱画像より得られた対象の温度分布を対象へ直接投影することで、ユーザが対象の温度分布を直観的に把握できるというものである。赤外線カメラはこれまで検査や医療といった分野での利用がなされてきているが、ユーザインタフェースの観点から見ると、赤外線カメラによって撮影された温度分布が、対象物体のどの部分と対応しているのかを、撮影された熱画像のみから認識することは容易ではないという問題があった。提案手法を実装したシステムを用いて温度分布観察実験を行った結果、対象物体上に温度分布が浮かび上がるような効果が得られた。本実験により、「ディスプレイ空間」(熱画像を提示する空間)と「対象空間」(対象物体の存在する空間)とが3次元実空間の中で一致し、モニタで観察するよりも直観的にその温度分布を把握することが可能となり、非破壊検査や医療への応用可能性を確認することができた。 二つ目のシステムとして、机上に乱雑に積まれた実書類群から所望の書類を探索するタスクを支援するシステムを提案した。このシステムでは、プロジェクタより下層書類表面のテクスチャ画像を上層書類へ投影することで、仮想的に上層書類を透過化し、ユーザがこれらを物理的に移動させることなく下層の書類へ視覚的にアクセスすることを可能とした。この書類透過処理を起動させるトリガとして、ユーザが机上の上層書類に触れた後に書類表面上に残る熱を熱画像から検出する手法を提案した。被験者実験を行い、提案システムによる支援によって、実机上での書類探索効率を向上させることが可能であることを確認した。 これらの研究成果を、3件の学術雑誌論文としてまとめた。
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