光電子材料・生体センサー等への応用を鑑みると、物質中の電荷移動度の最適化は不可欠であり、高分子の電子構造を正確に理解するためには、明確な構造を有するオリゴマーの電子構造の詳細な検討が有効である。 本研究では、fluoreneの9位にhexyl基及びhydroxyethoxymethyl基を有する両親媒性のAm-F3を合成し、UV-vis.分光測定、蛍光測定を行い、hexyl基のみを有する疎水性のDHF3の光学特性及び骨格上の電荷分布について比較検討を行った。UV-vis.分光測定結果より、Am-F3では溶媒の極性の増加に伴う吸収のred-shiftが見られる一方、DHF3では溶媒の影響は見られなかった。密度汎関数法により、Am-F3はDHF3より約10倍大きな双極子モーメントを有することが分かり、溶媒効果を受けやすいと予想される。また、Am-F3の発光スペクトルにおいて、溶媒の極性の増加に伴い非極性溶媒中での400nm付近の発光がほとんど見られなくなると同時に、540nm付近に強い発光が現れた。これは、溶液中でのAm-F3分子の凝集によるエキシマー発光であると推測される。極性溶液よりdrop-cast法にて作製した薄膜をAFMにより観察したところ、ナノ粒子が観測された。 次に、9位にhexyl基を持つfluoreneの1-5量体(DHF1-5)の光学特性とその電子構造について、理論と実験結果の両面から考察を行った。電子線パルスラジオリシス分光法を用いたDHF1-5の各電荷キャリアの過渡吸収測定の結果は、時間依存密度汎関数法(TDDFT)による計算結果とよい一致を示し、鎖長の増加に伴う吸収のred-shiftにより鎖上の共役の発達が示唆された。またTDDFT計算により、鎖上への電荷の付与によるfluorene分子の二面角の緩和が見られ、骨格の平面性への電荷の寄与が明らかとなった。
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