ポリエステルの原料であるラクトン(環状エステル)を水溶液中でシクロデキストリン(CD)と混合すると、ラクトンの加水分解反応が促進されることを明らかとしてきた。水などの溶媒を用いず、CDとラクトンを混合し加熱するだけで、ポリエステルが生成することを見出した。この重合挙動はCDの空洞の大きさとラクトンの構造によって、活性が大きく変化し、CDはラクトンに対して高い基質選択性も有することを明らかとした。CDとラクトンの混合系の観測から、水などの溶媒がなくても、100℃に加熱するだけで、ラクトンはCDの空洞内に取り込まれることが分かった。CDとラクトンの相互作用を検討したところ、ラクトンのカルボニル基はCDのヒドロキシル基と水素結合を形成し、ラクトンを活性化していることが明らかとなった。これらのことから、ラクトンはCDの空洞内に取り込まれ、100℃に加熱することで、ラクトンが次々とCDの空洞内で活性化され、開環重合が始まることがわかった。しかも、生成したポリマーは片方の末端にCDを有した珍しい化合物であることがわかった。すなわち、CDの二級ヒドロキシル基がラクトンのカルボニル基を求核攻撃して、開環するとともに結合し、重合が進行することが明らかになった。その成長反応の際、CDとポリマー鎖の結合の間に、新たなラクトンが開環されて挿入されることによって進行することがわかった。このように、基質の取り込み選択性や活性化といった酵素によく似た挙動をCDが示すことを見出した。
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