ミオシンに代表されるモータータンパク質はATP加水分解の化学エネルギーをアクチンフィラメント上における変位発生という力学エネルギーに変換する。近年、盛んに研究が行われているミオシンの一種であるミオシン5はアクチンフィラメント上で連続した変位を生み出すプロセッシブ運動と呼ばれる運動を示す。国内外の様々な研究グループによりプロセッシブ運動に関して様々な運動モデルが提唱されている。しかしながらこれら全てはミオシン5の変位発生にのみ基づいて提唱された運動モデルであるために、ミオシン5のプロセッシブ運動に伴うATP加水分解と変位発生の対応関係は依然として不明瞭なままである。そこで私はミオシン5のATP加水分解と変位発生を同時に計測することによりATP加水分解という新たな視点に基づいてミオシン5の運動モデル構築を目指している。平成18年度の研究においてはまずミオシン5のATP加水分解と変位発生を同時に計測するために必要な計測系の開発に着手した。全反射照明装置とレーザートラップを融合させた顕微鏡の開発を行い、またガラス基板上への安定したミオシン分子の固定法の開発を行うことで本研究の目的であるミオシン5のATP加水分解と変位発生の同時計測が可能となった(Komori et al. EABS&BSJ 2006ポスター発表)。現時点においてはデータ数が不十分であるために定量的な解析にまでは至っていないが、既にミオシン5のプロセッシブ運動の定性的な解析を行うには十分な実験結果の取得に成功している(小森智貴 2007年 生体運動班合同会議 口頭発表、Komori et al. 51th Biophysical Society annual meeting 2007ポスター発表)。
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