ジペプチドであるカルノシン(β-アラニル-ヒスチジン)およびアンセリ-ン(β-アラニル-1-メチルヒ-スチジン)は、抗酸化作用を有し、脳内で神経調節物質として働くことが知られている。一方、これらジペプチドは鶏胸肉抽出物に高濃度に含有されている。そこで今回は鶏胸肉抽出物およびその構成成分であるカルノシン・アンセリンが脳機能改善に有効か否かを調査することを目的とした。実験1として、鶏胸肉抽出物およびカルノシンがマウスの学習行動を改善するか否かを調査した。マウスに蒸留水もしくは鶏胸肉抽出物を3日間経口投与し、その後2日間、学習行動試験としてオープンフィールドテストを実施した。蒸留水もしくは鶏胸肉抽出物は行動試験期間中も継続して投与した。また、同様の方法でカルノシンの影響を調査した。その結果、鶏胸肉抽出物ならびにカルノシンの投与は学習行動を有意に改善した。したがって、鶏胸肉抽出物の投与によるマウスの学習行動改善は鶏胸肉抽出物の構成成分であるカルノシンによる可能性が示唆された。実験2として、鶏肉抽出物の単回投与がラットの脳丙遊離アミノ酸および両ジペプチド含量に与える影響を調査した。視床下部および海馬では、時間経過に伴い両ジペプチド量は有意に増加した。シトルリン量も、海馬および視床下部で時間経過に伴い有意に増えた。よって、鶏胸肉抽出物の摂取により、脳内両ジペプチド含量を高めることができ、それが抗酸化システムなどを介して脳の機能改善に貢献する可能性が示唆された。一方、カルノシンは一酸化窒素産生能を持つことが知られている。鶏胸肉抽出物摂取により一酸化窒素の基質であるアルギニンの脳内含量は変化しないことから、本実験で得られた脳内シトルリン量の増加は脳内で増加したカルノシンによるものかもしれない。鶏胸肉抽出物および両ジペプチド摂取による脳機能への影響は未解明な部分が多く、さらなる研究が待たれる。
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