前年度(平成18年度)は、ハイパーリン酸化配列を認識する人工ペプチドプローブ分子の研究過程において、チロシンを基本骨格とする2核の亜鉛錯体DpaTyr/2Znの置換基にクロロアセチル基をもつプローブが、特定のアミノ酸配列(Cys-Ala6-Asp4)と親和性を有するだけでなく迅速に共有結合標識が可能であることを偶然発見した。これまで、人工低分子と短鎖ペプチド配列との組み合わせによる、共有結合標識手法はほぼ存在していない。そのため、このような配列をタンパク質標識のためのタグとして用いることで、新規のタンパク質標識手法として提案することを本年度は目指した。 本年度(平成19年度)は、実際にタンパク質にタグを融合した状態で発現させ評価を行った。タグを導入したモデルタンパク質(緑色蛍光タンパク質)に対して、プローブとなるDpaTyr/2Zn誘導体を添加することで、完全水系において30分という短時間でのラベル化が可能であった。続いてタンパク質問での選択性を評価するために、多種タンパク質共存下において同様の評価をおこなった結果、タグつきタンパク質に対して選択的な修飾が可能であった。 次に生体内を指向した夾雑成分存在下での標識を試みた。タグつきモデルタンパク質(マルトース結合タンパク質)を発現する大腸菌を破砕したライセート対して、プローブとなるDpaTyr/2Zn誘導体を添加することで生体内成分共存下でのラベル化が可能であった。さらに、大腸菌細胞内の標的タンパク質に対しても標識が可能であった。 分子認識による選択性と化学反応の選択性を融合させた本手法が、夾雑系において有効なタンパク質標識手法となりうることを示すことができた。本手法は生体機能を支える重要なタンパク質の局在や動態を観測するバイオイメージング研究や、タンパク質工学のための分子ツールとしての貢献が期待できると思われる。
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