視覚系のニューロンの特性に基づき、ヒトの大細胞系(粗い形態視)と小細胞系(細かい形態視)をできる限り選択的に刺激できる低空間周波数顔刺激(LSF)と高空間周波数顔刺激(HSF)を画像工学的に作成した。これらを刺激として事象関連電位(ERP)を記録し、顔と表情認知の脳内処理過程を解析した。その結果、潜時約110ms(P1)で顔の全体処理(大細胞系)、潜時170ms(N170)で顔の輪郭や細部情報(小細胞系)を検出することを明らかにした。 表情については、まず潜時270-310msで快(喜び)と不快(怒りと恐怖)間の表情弁別が大細胞系により大まかに行われ(N270-310)、引き続いて潜時330-390msにおいてはネガティブ表情同士(怒り対恐怖)の区別が小細胞系によって詳細に行われる(N330-390)ことを示した。 さらにP1成分は視覚刺激の輝度やコントラストに鋭敏に影響されるため、等輝度の顔画像刺激を作成した。その結果、等輝度顔刺激ではP1が出現したのに対し、等輝度家画像では検出されなかった。この結果はP1成分が顔刺激に対して頑強性をもっていることを示している。顔の認知にはこれまでN170が重要といわれていたが、それよりも70ms早く輝度情報に依存しない特異的顔処理が行われていることを示した。さらに等輝度刺激特異的なN2成分が記録され、これは顔のコントラスト検出の機能と関連することを提起した。 加えてこれまで注目されていなかった快表情の脳内の詳細な賦活部位を確定するためにLSFとHSF喜び表情に対して機能的MRI(fMRI)を記録した。その結果LSF喜び顔に対して扁桃体と左上側頭溝の賦活が明瞭であった。これにより快表情認知では、特に情動の処理に関与する扁桃体と社会的視覚刺激に応答する側頭溝の賦活が、LSF情報によってより賦活されることが分かった。
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