私の研究の目的は、石器・金属器の生産と流通から「東アジアにおける石器から金属器への転換過程」を明らかにすることにある。この目的を達するためには、ある特定の形態の鉄器、あるいは同一形態、同一石材の石器の広がりを明らかにすることで、その流通形態を明らかにし、またそれらを生産した遺跡が発見されていれば、当時の技術的水準の変化から、利器の生産と流通が石器から金属器へと変わることによって、社会にどのような影響を与えたのかを明らかにすることである。 私は以上の観点から平成18年度は、原産地がわかりやすく、また遺跡に残りやすいため比較的検討しやすい弥生時代、つまり利器が石器から金属器へと転換する時期の石器について、その原産地と生産遺跡、および流通の広がりについて焦点をしぼって研究を行った。その研究の中で、これまで石材の原産地が知られておらず注目されていなかった石器が、これまで認識されていた以上に広範囲に、そして大量に存在することがわかった。私はこの石材を薄片プレパラートにし、偏光顕微鏡を用いて観察し、また蛍光X線分析装置を用いて測定を行うなどして分析を行い、この石器の石材が長崎県の対馬南部に産するものであるということを明らかにした。これは、本学の地質学教室の教授や学生たちとともに対馬を巡検し、また共に石材を分析するなど学際的な研究の賜物であり、この石器の原産地は考古学界では新発見である。また、韓国の石器についても生産と流通の観点から研究を行っているが、その調査のため18年度は約1週間、韓国に資料調査に赴いた。その調査によって、韓国南部の金海市・釜山広域市においても対馬産石材の石器が出土していることが明らかになり、弥生時代における日本と朝鮮半島の交流の様相に新たな一要素を考えさせることとなった。 平成18年度は特に石器の生産と流通の様相、そして原産地を明らかにすることに力を注いだ。対馬産石材のほかに北部九州地域で流通する玄武岩製太形蛤刃石斧の原産地については巡検、あるいは蛍光X線分析を用いて測定を行うなどして、原産地を特定し、それについての論文を投稿し現在、受理されている状況である。また、対馬産石材の原産地および生産と流通の様相についても現在論文を執筆中で、今年度前半には投稿する予定である。
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