研究課題
本研究は、実際に生きた神経回路の活動計測に基づいて脳神経系の情報処理機構を明らかにしてゆくための新たな研究手法の開発を目的とする。そのために今年度は、小規模な神経回路の量産技術およびその活動計測技術を新たに開発し((1)・(2))、それらを組み合わせることで、計測対象とする神経回路の全体像と内部構造を把握した上での電気活動計測が可能であることを確認した((3))。各々については以下のような結果を得た。(1)「スプレーパターニング」による小規模神経回路の量産技術の開発細胞非接着性の細胞培養皿底面にPoly-D-Lysine水溶液を噴霧し、細胞接着性の微小領域(直径数十から数百μm)を一度に多数作成した培養底面上に神経細胞を分散させて培養する方法で、微細加工設備を用いずとも、一個〜数十個の細胞からなる小規模な神経回路を一枚の培養皿の中に約5千個形成させる手法を開発した。(2)「可動式微小電極」による培養神経回路の位置選択的細胞外電位計測法の開発ガラス管微小電極に先端径10μmの金属線を挿入した微小電極を作成し、マイクロマニピュレーターで電極先端を培養細胞に近接させる方法で、培養神経細胞の自発的活動電位発生(自発発火)の信号が観測された。本手法では、計測対象の細胞を自由に選択しながら、従来の培養底面固定型の微小電極アレイ(MEA)と同等のS/N比と40μSの時間分解能で細胞外電位変化の計測が可能である。(3)小規模神経回路の自発活動の位置選択的細胞外計測(1)で構築した培養8日目以降の小規模神経回路の構成細胞に(2)で作成した可動式微小電極の先端を近接させると、その細胞の自発発火の信号が計測された。電極先端付近に複数の細胞体が密集する条件では自発発火の信号が約1msの間隔をおいて計測される場合もあった。この結果は、計測対象の神経回路の構成細胞間で同期的な自発発火が行われていることを示唆する。
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すべて 雑誌論文 (2件)
Japanese Journal of Applied Physics Vol.45,No.30
ページ: L796-L799
電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌) (採択済み)