研究概要 |
本研究は,生きた神経回路に対する単一ニューロンレベルの活動計測とネット全体ワークレベルの活動計測を両立させることで,神経回路網システム内の部分と全体の相互作用の全貌の記録データに基づくボトムアップの脳機能研究手法を確立することを目的とする。第二年度は可動式微小電極の空間分解能とS/N比の改善((1)),小規模神経回路の電気的活動(自発および誘発活動)の記録と解析((2))を行った。(1)では電極構造の先鋭化によって細胞外電位計測の空間分解能及びS/N比が改善された。さらに,本手法が大脳皮質由来のニューロン群に対しても適用可能であることを確認した。(2)では(1)で得られた高感度の電極を用いてラット海馬由来小規模神経回路群の自発的スパイク発火の検出を行った結果,スパイクの間隔と振幅が共に数分間周期で振動する状態遷移が観察された。特に,単一ニューロンが形成した(グリア細胞を含まない)最小構成の再帰的神経回路においても同様の振動的状態遷移を見せる自発発火が生じ得る事を確認した。この振動の周期にはネットワークの規模への明瞭な依存性はみられず,ネットワークの構成ニューロン数が1個から数千個までの範囲では共通して数分間前後の範囲であった。一方スパイク発火の頻度については,構成ニューロン数が増大するほど個々の構成ニューロンの発火頻度も増大する傾向がみられた。また,誘発活動については,信号増幅回路-電気刺激回路の高速スイッチング-トレーシング機構を利用することで1本の電極からの刺激と計測の両方を行ったが,その結果,小規模神経回路において,単発の電圧パルス刺激に対して数秒〜数十秒間,1〜4Hz程度の振動的スパイク発火が観察された。以上の自発誘発活動の計測の結果から,細胞数個程度のきわめて小規模な神経回路においても,自発的に階層的なリズム構造が形成され得ることが示唆される。
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