本研究の目的は、リクールの哲学的営為の全期間にわたる諸著作・論稿を<心身問題・言語・時間>という3つの根本問題への取組みとして捉え、その核心を明らかにすること、として設定されていた。当年度の研究においては、 1.前期リクールにおける「説明/理解」の問題についての分析検討がなされた。またその際、『意志的なものと非意志的なもの』に登場する特異な概念である「診断」(diagnostic)に関して、「説明/理解」という二項対立を或る仕方で媒介するものとして着目し、解明した。次年度以降の研究においては、この前期における「診断」概念が、中期・後期のリクール思想における諸モーメントへと、どのように連関してゆき、また深化されているか、ということについての分析が展開されることになろう。 2.初期・前期リクールにおけるフッサール現象学への取り組みに関して、同時期にリクールの仕事からの影響を受けつつ遂行されていた、ジャック・デリダのフッサール現象学への取り組みと交差・対照させつつ、分析検討がなされた。リクール、デリダ両者の議論において、核となっているのは共に「カントの意味での理念」であるということが明らかになった。そこから、事柄は狭義のフッサール解釈にとどまらない、カント解釈・ハイデガー解釈を含みつつの、リクールおよびデリダ各人の思想展開の内実に自ずと関わってくる。これは次年度以降の研究の課題となる。 3.上記の二点は基本的に当初の研究計画通りに遂行されたものであるが、加えて、当初の予定にはなかった実績として、国際学会《International Whitehead Conference》(於ザルツブルク大学、オーストリア)に参加し研究報告をするということができた。日本国外の研究者と知識共有・意見交換をなすことができ、極めて有意義であった。またその報告の内容は、学会における一部会の諸報告をまとめた形で、次年度中にも英語と日本語の双方で出版がなされる予定である。
|