1、主要研究対象である「女の決闘」・「走れメロス」・『新ハムレット』の3作品については、それぞれテクスト分析及び西欧文芸・思潮との交錯の検討を進めた。「女の決闘」については、テクスト分析と併せて、オイレンベルグ作/森鴎外訳「女の決闘」がどのように読み替え・書き換えられたのかを、語りのパフォーマンスという観点から捉え直し、近代文学史を背景とした「描写(論)」の分析を進めた。「走れメロス」に関しては、昭和15年前後のシラー受容やドイツ文学の位置づけを、当時のドイツ文学の研究・批評言説からすくい上げ、日本での受容を分析し、典拠の歴史的な含意を明らかにした。『ハムレット』を典拠とする『新ハムレット』については、昭和10年代のシェイクスピア・『ハムレット』受容の動向を、当時刊行された研究書・翻訳に加え、英文学会誌や文芸誌(外国文学研究への論及)まで調査し、分析を進めた。 2、昭和10年代の文学ジャンル編成に関する研究としては、文壇で前景化された火野葦平『麦と兵隊』を中心とした報告文学の隆盛と、富沢有為男『東洋』を中心とした「素材派・芸術派論争」を対象に、同時代資料を手掛かりに分析した。 3、太宰治(総体)に関しては、戦後のトピックを2つ検討した。1つは、戦後、どのような要因・過程から、太宰治が他作家と〈無頼派〉として括られていったのかを分析し、研究会で報告した。もう1つは、『人間失格』をとりあげ、その書き出し部の精読から、新たな作品読解の観点を提出した。
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