研究概要 |
本年度の研究計画に沿い,清朝による中央アジア統治の具体像を明らかにするため,満洲語,モンゴル語,チャガタイ=トルコ語の文書・写本を利用して研究を行った。 先ず,6月末〜7月初旬にかけて中国新彊ウイグル自治区へ出張し,同自治区梢案館において,18世紀に南ロシア草原から移住したオイラト=モンゴル族の一派であるトルグート部が持参した満洲語・モンゴル語の合壁文書3件を調査し,その内容や梢案館の利用方法について研究会で報告した。また,同自治区博物館において,清代ハミ王家のチャガタイ=トルコ語碑文の調査を行った。7月下旬には,中央アジアから北京に強制移住させられたトルコ系ムスリムの歴史と現状について,四言語で刻まれた石刻史料(拓本)の調査と聞き取り調査をもとに明らかにし,学会で報告した。現在も彼らの後裔が北京市の一角に居住しており,言語を喪失しつつも,依然アイデンティティを保持していることがわかった。8月には,ウズベキスタン等中央アジア諸国へ出張し,ほかの日本人研究者,ウズベク人研究者とともにイスラーム聖者廟(マザール)等の史跡調査を実施した。9月末にはミシガン大学で開催された第7回中央ユーラシア学会(CESS)において欧米の研究者2名とパネルを組み,18世紀後半における清朝とカザフ遊牧勢力の政治的関係に関する報告を行った。両者の政治的関係を満洲語,モンゴル語,チャガタイ=トルコ語の原文書で再検討し,その関係が中国・儒教的論理ではなく,モンゴルに由来する「エジェンーアルバト関係」に規定されていたことを明らかにした。帰国後,報告内容を改訂し論文として発表するとともに,学会参加記を執筆した。11月には,中国北京市へ出張し,中国第一歴史档案館で「軍機処満文録副奏摺」・「軍機処満文上諭档」等の満洲語史料の調査を実施し,清代東トルキスタンで施行されていたベク制度に関する史料を収集した。
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