本研究は、「子ども」はそれ自体で価値があり、同時に「社会」の未来と関係しているから大切であるという、「子ども」をめぐる通念の歴史を、近現代日本において実証的、理論的に解明するものである。近現代日本の、大人と子どもの「子ども」に関するイメージが表れた言説資料の収集・モデル化と、「子ども」の価値や「子ども」と「社会」に関する社会学理論の理論的検討とを両輪としている。 1社会化論の検討 「子ども」と「社会」に関する社会学の理論である社会化論を検討し、社会学(教育社会学)も、「子ども」の価値と「子ども」が「社会」の要であるという前提を無批判に踏襲してきたこと、その前提の範囲内で、より子どものため、社会のための「社会化」を目指してきたということを明らかにした。 2近現代日本における「子ども」観の成立・揺らぎ・現在の記述、理論化 「子ども」の価値と「子ども」と「社会」のつながりを疑いながら自明のものとし続ける感覚の戦前期から近年にいたる歴史を、その機制とともに描き出す作業を行った。その成果の一部を、学会発表および雑誌論文として発表した。 3教育改革をめぐる議論に関する資料の収集・検討 教育批判、改革論、改革批判に関する資料を収集し、上述の教育論の前提が現在どう変化しつつあるかを探求した。産業構造の変化に伴う就業問題を背景に、キャリアの重視や教育の配分の側面へと注意が喚起され、「子ども」という観念を機軸に展開されてきた教育論に変化の兆しが見られるが、従来型の語り口も有効性を失っていない様子を分析した。
|