研究概要 |
本年度の研究では、研究課題である正義の実質的内容を解明し、それに基づいて社会福祉システムへの規範的資格を提示する研究の一環として、正義の構想において不平等を正当化する諸価値についての研究を進めた。とくに本年度は、自己所有(権)が正義の構想においてどのような役割を果たすのかについて、自己所有(権)概念に関する様々な研究を検討しながら、自らの見解を示すことができたと考える。その成果として、学会報告では2007年10月に行った「自己所有権と平等-レフト・リバタリアニズムの意義と限界-」、査読付き論文では、"Can a Right of Self-Ownership be Robust?"Law and Philosophy,Vol.26,No.6(2007 November)及び、「正義論としてのリバタリアニズムーヒレル・スタイナーの権利論-」,『法哲学年報2007』(2008年10月)があげられる。また本年度は、昨年度に集中的に取り組んだ平等の価値をめぐる研究の成果にも恵まれた。その成果として、二つあげられる。第一に、平等を主要な価値とする正義論を打ち立てたことで知られているロナルド・ドゥオーキンの議論を批判的に検討した、「平等・自由・運-ドゥオーキン資源平等論の再検討-」,萩原能久(編著)『ポスト・ウォー・シティズンシップの思想的基盤』慶應義塾大学出版会,第5章,(2008年1月)、第二に、ジョン・ロールズの平等主義的正義論がジェンダー間の不平等問題にどう適用されうるかを評価的に検討した論考"Beyond a Strictly Political Liberalism? Critical Response to Abbey,"Journal of Ethics&Social Philosophy,Discussion Note(2008 March)、以上である。 本年度の研究成果で特筆すべきことは、拙稿が競争率の高い、定評ある海外のジャーナルに二本も掲載されたことである。それゆえ今年度は、当初の予想を上回る研究成果をあげることができたと考える。
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