本年度は、まずアメリカ合衆国で1960年代に行われた「貧困との戦い」事業について、その中心となったコミュニティ活動事業がどのような背景の中で考案され、人種・ジェンダー化された市民権の概念を創出したのかを分析し、日本のアメリカ史学会での例会報告及び投稿論文(審査中)としてまとめた。 次に、コミュニティ活動事業における「住民参加」を通じた「上」からの「コミュニティ」再建の技法が、日本のコミュニティ政策にいかに「翻訳」され、モデル・コミュニティ事業として導入されたかを検討し、論文を執筆した。 さらに、こうした国家が「上」から行うコミュニティ政策に対して、「市民」の境界の外に位置づけられた在日コリアンの活動家がいかにアメリカの黒人神学を「翻訳」・「再解釈」しながら「市民権」概念の書き換えを行ったかを考察し、学会報告を行った。具体的には、川崎市南部を取り上げ、川崎教会に所属する在日コリアンの活動家が、M.L.キング牧師の活動や黒人神学者J.コーンが唱えた「解放神学」に影響を受け、コーンらキリスト教関係者の支援を受けながら、在日2世の青年を不当解雇した日立に対する就職差別裁判を支援し、勝利に至る過程、及びその運動を基盤に川崎市において国籍条項撤廃運動を展開する過程について、フィラデルフィアで開催されたアメリカのアメリカ学会で報告を行い、honorable mention賞を頂いた。 同時に、世紀転換期から1930年代に至るアメリカ合衆国において、「市民権」の境界がいかに構築され、またその境界が読み換えられたかを、「多人種社会」ロサンゼルスを舞台に読み解いた、松本悠子氏の著作『創られるアメリカ国民と「他者」-「アメリカ化」時代のシティズンシップ』の書評を執筆した。
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