研究概要 |
本年度は、まず(1)博士論文"Contesting Citizenship:Race,Gender,and the Politics of Participation in the U.S.and Japanese Welfare States,1962-1982"(カリフォルニア大学サンディエゴ校歴史学科提出、全330頁)を完成させた。これは、ロスアンジェルスの黒人と川崎の在日コリアンの活動を第二次大戦後のアメリカ及び日本の福祉国家拡大期(1960-70年代)における市(シティ)民権(ズンシップ)をめぐる論争の中心に再配置するものである。アメリカの福祉国家の内側から、貧困、教育、雇用問題に取り組み、「住民参加」を政治参加の機会へ転換させた黒人側の戦略と、日本の福祉国家の外側から「市民」の定義を問い直し、国籍条項撤廃運動及び福祉権運動へつなげた在日の活動家の戦略を比較・検討した。また、アメリカの黒人神学と解放運動がいかに在日の活動家に受容され、巧みに「翻訳」されたのかを分析し、両者が連結し、国境を越えて運動が展開する過程を明らかにした。 次に、(2)アメリカ合衆国で1960年代に行われた「貧困との戦い」事業について、特に「貧困層」の「可能な限り最大限の参加」条項が生み出された背景について検討し、ジョンソン政権が「貧困との戦い」を通じて「貧困層」をいかに国家の利益に適う生産的で自立した「市民(シティズン)」へと創り変えようとしたのかを分析し、投稿論文を執筆した(投稿中)。 さらに、(3)1966年から75年まで要扶養児童家族手当(AFDC)の受給者を束ねる組織として活動を行い、「福祉」を「施し」ではなく「権利」として再定義した全米福祉権団体(National Welfare Rights Organization,NWRO)の活動について史料収集及び研究調査を行った。特に、ロスアンジェルスのワッツ地区で「福祉受給者による、福祉受給者のための組織」を結成し、その後全米福祉権団体の議長及び事務局長を務めたJ.ティルモン(Johnnie Tillmon)の活動に焦点をあて、学会報告を行った。
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