18年度は研究課題の一方の柱である「世代間正義論」に精力を傾注した。その結果を、『国家学会雑誌』119巻5-6号に論文「世代間正義論--将来世代配慮責務の根拠と範囲」(約8万字)として発表した。現在世代と相互的関係にない将来世代への配慮責務は、その範囲の非確定性および存在の依存性という性格から、従来の分配的正義論の枠組みでは基礎付けることが困難であるため、現在世代の各人がどれだけの範囲の将来世代を配慮すべき対象として措定するのかが問題となるのであり、その限りにおいてのみ配慮責務の引き受けがなされると結論付けた。この立場はいまだ存在せざる将来世代の名の下に現在の分配の不正義が隠蔽されることを深刻な問題として捉えるが、それは決して現在世代の放縦の容認ではない。現在世代は一定の将来世代の存続を前提とした諸制度のもとで生存している以上、その限りでの配慮責務は上述の枠組みから導出される。以上の議論は、リベラリズムおよび現在主義の立場によりつつ、現実の環境政策の基礎付け/限界付けを行うものである。 また筆者は、井上達夫教授(東京大学大学院法学政治学研究科)の科研費プロジェクトに研究協力者として参加した。その成果として出版された論文集『公共性の法哲学』(井上達夫編)に、筆者は小文「世代間正義と公共性--なぜ将来世代を思い煩わなければならないのか」を執筆した。これは上述の問題意識を「通時的公共性」はいかにして可能かという角度から再構成したものである。 以上の論文・小文により、1年目の主要研究テーマである「世代間正義論」について一応の達成を得た。研究テーマのもう1本の柱である「法時間論」ではここにおいて抽出された規範の将来志向的構造を法概念論一般の問題に拡大し、法の内在的時間構造を描出することを目指す。19年度にはそれを博士論文として完成させることを課題としており、すでに文献購読など予備作業を順調に進展させている。
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