転写因子IRF-2の遺伝子欠損マウスのin vivo解析から、同マウスの新たな表現型として慢性的貧血症状が新たに見出された。同遺伝子欠損マウスの貧血症状は正球性正色素性貧血に分類され、特にTer119high、CD71high細胞すなわち正染性赤芽球の分化ステージにおいて、高頻度にアポトーシス細胞が観測されることが明らかとなった。赤芽球の生存・増殖に必須とされているBcl-xlの発現量を同遺伝子欠損マウス骨髄細胞を用いてRT-PCRで解析したところ、野生型骨髄細胞と比較して有意に減少していることが見出された。転写因子IRF-2はI型インターフェロン(I型IFN)シグナルの負の調節因子であり、実際に同遺伝子欠損マウス骨髄細胞において過剰なI型IFNシグナル(I型IFN誘導遺伝子であるPKR、OASの高いレベルの発現)が検出された。過剰なI型IFNによる細胞増殖現象はよく知られていることから、赤芽球の分化・増殖抑制に対してもI型IFNが関与していることが推察された。そこで、I型IFN受容体欠損マウスとIRF-2遺伝子欠損マウスとの両欠損マウスを作成し、赤芽球異常を観察したところ、正常に回復された。以上のことより、I型IFNシグナル依存的に赤芽球分化抑制が起こっていることが個体レベルで明らかとなった。これはインターフェロン療法の際に、しばしば引き起こされる副作用の一つである貧血の原因解明につながる研究である。実際に、I型IFNシグナルによって、Bcl-xLの発現抑制がどのような分子メカニズムによるものかを解析すれば、効果的な貧血防止薬剤などの開発が可能であり、副作用の少ないインターフェロン療法の実施が実現する。抑制作用の分子基盤の解明に着手してきたが、未だ有用な手がかりが得られていない。I型IFNによる細胞分化抑制は、赤血球以外にも知られていることから他の抑制機構との比較検討からこの分子基盤解明につなげていきたいと考えている。
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