昨年に引き続き、中部イタリアで得られた、白亜紀中期の海洋無酸素事変(OAE)時にテチス海西部に堆積した黒色頁岩試料について、様々な構造を持つ化石ポルフィリンを抽出・分析した。その結果、光合成生物一般を起源とするポルフィリン(DPEP)について、(a)窒素同位体組成は窒素固定を行うシアノバクテリアに特徴的な値を示し、(b)炭素同位体組成はシアノバクテリアなどにみられる基質炭酸の細胞内への能動輸送やPEPE酵素を用いた炭素同化が、当時の光合成一次生産において重要であったことを示唆した。さらに、藻類だけが持つクロロフィルbやクロロフィルcを期限とするポルフィリンが確認され、それらの安定同位体組成は、これら真核藻類が窒素固定生物と親密な関係にあったことを示した。よって、OAE当時の海洋では、窒素固定シアノバクテリアが供給する窒素に依存する生態系が存在したことが示された。 OAE黒色頁岩試料からは、ヘムを起源とする構造を示すポルフィリンが見いだされた。このポルフィリンの窒素と炭素の同位体組成は、クロロフィルを起源とするそれらとは大きく異なる同位体組成を示した。このことは、従来決着がなされていなかった化学構造だけに基づくこの化合物の起源に関する議論に決定的な証拠を提示するものであり、また、新しい古環境指標としての大きな可能性を示すものである。
|