超好熱性古細菌Sulfolobus tokodaii菌体抽出液中から5段階のカラムクロマトグラフィーによりATP依存性ヘキソキナーゼ活性を持つタンパク質(StHK)を精製し、ペプチドマスフィンガープリント法によりその遺伝子(ORF ST2354)を同定した。ST2354は、"hypothetical protein"とアノテーションされており、ヒト由来N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)キナーゼと約25%の配列同一性を持つことがわかった。精製した組換えStHKの機能解析を行い、StHKはグルコースに加えGlcNAcなどの複数のヘキソースのリン酸化を触媒できる新奇耐熱性ヘキソキナーゼであることが明らかにした。アミノ酸配列の類似性から、StHKはSulfolobus属に特徴的なヘキソキナーゼであることが示唆された。 StHKの基質認識機構の分子機構を解明するために、セレノメチオニン置換体を用いた多波長異常分散法または分子置換法により、StHKの4つの異なる状態[(1)アポ状態、(2)グルコース複合体、(3)ADP複合体、(4)キシロース・Mg^<2+>・ADP複合体]の結晶構造を1.65-2.0Å分解能で決定した。アポ状態とADP複合体はopen型構造をとるのに対し、グルコース複合体とキシロース・Mg^<2+>・ADP複合体はclosed型構造をとることから、糖結合は大きな構造変化を誘導するがADP結合は構造変化を誘導しないことが示唆された。StHKはヘキソキナーゼファミリーに特徴的なコアフォールドを持つが、基質認識に関与するループ構造が他のヘキソキナーゼファミリーのメンバーのそれと大きく異なることがわかった。StHKとGlcNAcキナーゼおよびヘキソキナーゼとの構造比較から、なぜStHKはグルコースとGlcNAcの両方をリン酸化できるのかを説明することができた。さらに、キシロース・Mg^<2+>・ADP複合体は、ヘキソキナーゼファミリーにおいてMg^<2+>イオンの結合様式が可視化された初めての例であり、これまでにヘキソキナーゼにおいて提唱されていたリン酸転移機構についてより精確に理解することが可能となった。 以上の結果を、2006年9月にフランスで開催された国際学会Extremophilesにてポスター発表し、さらに2報の学術論文として発表した。
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