研究概要 |
タマネギバエ(Delia antiqua)を用いてCCT(chaperonin containing the TCP-1)が耐寒性獲得に関与していることを明らかにするため以下の実験を行った. 1.CCTを構成する全サブユニット(α〜θ)が,耐寒性の増加に伴い全サブユニットのmRNA発現量が同調して増加していた. 2.低温処理後,CCTの基質であるアクチンの構造を蛍光観察したところ,耐寒性の低い個体ではアクチンのdepolymerizationが観察された.また、低温により生じたアクチンのdepolymerizationの後に細胞膜が損傷を受けることが観察された. 3.幼虫期にアクチンの重合阻害剤であるLatruncuhnB(LatB)を摂食させた蛹を用いて耐寒性試験を行った.その結果LatBを摂食した蛹において有意に耐寒性の低下が観察された. 4.耐寒性を獲得するとCCTを構成する全サブユニットが同調して増加することから、全サブユニットが同じ転写制御を受けていることが示唆された。そこで、genome workingにより全サブユニットの上流のシーケンスを明らかにした。しかし、全てのgenome workingが完了せず、エンハンサーやプロモーターの解析には至らなかった。 5.RNAiによりCCTを構成するサブユニットのサイレンシングを試みた。しかし、適切な条件を見出すことができず、結果を得ることができなかった。 以上の結果から,CCTの転写制御ならびにRNAiにおける証明には至らなかったが、耐寒性の高い蛹ではCCTが細胞内に多く存在するためアクチンの増強,もしくは低温によってdepolymerizationが生じても迅速にアクチンの再重合を誘発し,その結果アクチンが細胞膜を保護することで耐寒性を獲得していることが示唆された。
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