〈概要〉 ミャンマーの僧は経済活動をしない。したがって衣食住、教典学習、瞑想実践は、すべて「布施」に依存している。また近年は在家仏教徒が仏教について学習し瞑想する機会が増えているが、こういった比較的新しい現象も、「布施」に支えられている。村落部においては「村の寺」を村人が支える、という比較的単純な布施の流れがあるが、人口も僧院も多い都市部では、誰がどこになぜ布施をするのか、という布施の流れが複雑になっている。したがって、ミャンマー都市部における仏教実践の変容を検討する上で、「布施」は一つの切り口として有効である。そこで本年度は、「布施」がどのように流れているのか、そのように流れるのはなぜか、「布施」の流れによってどのような仏教実践が可能になっているのか、といった問題を明らかにするため、ミャンマー最大都市ヤンゴンにおける2度のフィールドワークを実施し、僧院や仏教徒組織での聞き取り・資料収集を行った。また同時に、「布施」に関する文化人類学の先行研究の整理、「布施」に関する仏教教義の整理を行った。 〈現地調査の実施内容と成果〉 (1)僧院(瞑想センター)での聞き取り・資料収集 土地・建物をどこからどのように得たか、日常的な衣食住薬をどのようにまかなっているのか、どのような形で布施があり、それをどのように使用しているか、といった質問を中心に聞き取り・資料収集を行った。布施は僧の個人財産と、僧院の共有財産になる場合があり、共有財産の場合は僧院内部で収束するが、個人財産は様々な形で外部に還流することがわかった。また、活動内容によって僧院でもかなりの貧富の差があること、布施を運用して順調な布教活動ができる場合とできない場合があることがわかり、その原因について分析を進めた。 (2)仏教徒組織での聞き取り・資料収集 各地区には周辺の僧院の托鉢を支えるための「施食組織」や、在家への仏教講座など諸々の布教サービスを行うような大規模な組織など、大小2つのレベルの仏教徒組織において聞き取り・資料収集を行った。この調査により、布施の流れを検討する上では、在家に布施の機会を提供し、諸々のイベントを計画・実行している無数の仏教徒組織の活動が重要であるとわかった。特にこの2、3年で急増している説法会は、在家がより仏教に触れる機会になると同時に、僧への布施を促し、そのように集積された布施が僧の布教活動によって社会に還元されていく、という流れがみられた。
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