今年度はアメリカ・ロサンゼルスにおいて、白人とアジア系が多い公立小学校4校を訪問した。授業時間のほか、休み時間・ランチタイムにおいて参与観察を行い、10歳から12歳までの子どもたち同士が相互作用の中で友情関係および民族的差異を中心とした様々な社会的差異を、どのように構築・解釈しているかについて分析を行った。特にランチタイムに焦点を当てた分析では、以下のことが明らかになった。 観察した4校すべてのランチタイムにおいて、子どもたちは能動的に「食べ物の交換」に興ずることが見出された。子どもたちは、食べ物の交換という文化的慣習に参加し、それを活用することで、友情関係を構築・回復・拒否する行為を行っている。この点からすると、食べ物の交換は単に利益追求を目的とした経済的交換ではなく、ゴッフマンのいう社会的交換social exchangeである。また、エスニックフードという民族的文化の象徴が交換されるとき、子どもたちはその行為を通じて、友情関係と同時に民族的差異にも操作を与えている。子どもたちは2種類の食べ物(「Wet food」と「dry food」)と3つの形態の交換方法(贈与、分与、交換)を組み合わせながら、友情関係を構築し、その過程でジェンダー、階層、民族、年齢といった社会的背景の差異を強調したり、緩和したりしている。 以上の分析からは、民族的アイデンティティはこれまでの社会化論が提唱するように発達の過程で大人社会から付与される固定的な自己定義ではなく、社会的構造(特に階級差や学校の民族的編成)に制約されながらも、子どもたち自身が仲間集団文化に参加する中で実践する、流動的な自己定義の過程と考えることが妥当であるという理論的含意が得られた。特に10歳から12歳までの思春期前の時期は、子どもたちが仲間集団の中で民族的アイデンティティを試行錯誤のうちに実践・獲得していく重要なライフステージだと考えられる。
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