研究概要 |
プログラム細胞死は、多細胞により構成される器官の発生で重要な役割を果たす。特に神経系では、発生初期に大過剰の神経系幹細胞を産生することが知られており、細胞を適宜除去していく過程は、脳を構築する上で必須の現象であると考えられる。しかしながら、これまでのところ細胞死の起こる場所や時期を特定するまでには至っていない。また、その生理機能に関しても不明な点が多い。本研究は、神経系発生過程で失われていく細胞を同定するとともに、その役割を解明することを目的とする。 (1)死細胞の同定 組織中の死細胞を特定する難しさは、死細胞が隣接細胞により急速に貧食される点にある。より多くの死細胞を同定できるよう、細胞死の一連の過程の中でも早期に起こるカスパーゼ3の活性化に注目した。種々の領域に対して抗カスパーゼ3抗体染色を行った結果、胎生後期の嗅上皮において、死につつある嗅細胞が数多く観察された。またカスパーゼ3は嗅細胞の細胞体のみならず軸索においても活性化しており、その軸索は嗅球前部に投射していることが明らかとなった。 (2)細胞死の生理機能の解析 上記のように領域および時期特異的に嗅細胞が失われていく意味を調べるにあたり、カスパーゼ9、あるいはApaf-1を欠損したマウスを用いた。嗅細胞軸索マーカーであるNCAMで染色すると、嗅球における嗅神経軸索の分布に異常が観察された。そこで、嗅細胞の投射パターンを詳細に解析するために、特定の嗅覚受容体(OR)遺伝子座にOR-IRES-tau-lacZ変異を導入したマウスとカスパーゼ9,Apaf-1欠損マウスをそれぞれ交配した。lacZ染色により、特定のORを発現する嗅細胞を可視化すると、カスパーゼ9,Apaf-1欠損マウスでは、その軸索の通路が通常よりも後方にシフトしていた。現在、嗅細胞の軸索伸長と細胞死シグナルとの関連性について、解析を進めているところである。
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