本年度は、1.明治期における建築家の誕生と職能の変遷という歴史の側面、2.専門誌・一般紙誌における建築家の表象というマスメディアの側面に関する研究を進めた。具体的な研究成果は、以下1の4点である。 (1)関東社会学会の口頭発表では、第一に、芸術社会学の「作者」に関する学説史を整理し、芸術家のなかにおける建築家の特異性を確認した。第二に、建築家を取り巻く技術、市場、アカデミー、書物などの社会的諸関係によって形成される建築の「場」(P.ブルデュー)の観点から、西欧のルネサンス期と日本の明治期における建築家の誕生を比較考察した。 (2)『年報社会学論集』では、1950-60年代における丹下健三の有名性の社会的生産を、建築専門誌・一般紙誌の分析を通して明らかにした。第一に、建築専門誌は、建築家の組織体制をめぐるヒエラルキーを反映し、建築/非建築や、有名/無名の区別をもたらす装置であること、第二に、1950年代の「広島平和記念公園」では、丹下の有名性は国家、戦後民主主義、アカデミズムの権威、都市計画的発想によって支えられた「正統的有名性」であったこと、第三に、1960年代の「国立屋内総合競技場」では、その有名性は、象徴性や世界性を帯びると同時に、商品化するようになったことを論じた。 (3)表象文化論学会の口頭発表では、(2)の丹下の有名性と、1960-70年代の黒川紀章の有名性との差異について報告した。とりわけ、他ジャンル誌や一般誌における黒川の取り上げられ方を網羅的に調:べる作業を行った。その一部は、『SD 2006』に寄稿した。 (4)現在は、建築家の有名性が、マスメディア内に充足するものではなく、クライアントの意思や、都市における空間化と連関していることに注目して研究を進めている。本年度は、そのための準備作業として、H.ルフェーヴルの都市・空間論の概説を『都市空間の地理学』に執筆した。
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