研究概要 |
本年度は、生命倫理政策の歴史的過程を日米比較の視座から分析するための基礎作業に着手した。具体的には、まず、日本の1970年代における組換えDNA実験規制の導入について、歴史的文献調査および行政官・研究者等への半構造的聞き取り調査を実施した。また、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)文書館所蔵のRecombinant DNA History Collectionを対象とした歴史的文献調査を実施した。本コレクションは、米国の1970年代における組換えDNA実験規制の導入に関与した研究者等への聞き取り調査の成果を含んでいる。 現時点における主な分析結果として、次の2点が挙げられる。第一に、日本における組換えDNA実験規制の政策決定をめぐる審議会は複数あったことである。研究者の代表機関である日本学術会議、行政機関である文部省の学術審議会、および科学技術庁の科学技術会議、という3つの審議会によって担われた。このことは、米国において国立衛生研究所(National Institutes of Health, NIH)の組換えDNA諮問委員会が実験指針案の策定過程において集中審議を行ったことと対照的である。第二に、日本では3つの審議会のそれぞれが、実験規制案の審議において米国よりも時間がかかる要素を備えていたことである。まず、学術会議では当時の会員の多くが研究規制に消極的であった。また、学術審議会における事務方である文部省の行政官には、当初は具体的な実験指針を策定する行政上の専門的識見を有する人材が少なかった。さらに、科学技術会議のライフサイエンス部会は学術審議会における議論の動向を静観する構えをとっていた。 以上の成果は、来年度中に学会発表および学術論文として順次公表する予定である。
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