研究概要 |
本年度は,日米比較の視座から生命倫理政策史の研究成果をまとめる作業に従事した.具体的には,1970年代の日本における組換えDNA実験規制の導入を「同時期米国の規制」や「1980年代日本の規制」との関連に注目して分析した.まず,米国との比較を念頭に置き1970年代の日本の事例を分析した英文原著論文を学術雑誌に投稿し,受理された.また,1970年代に実験規制を推進した「科学者グループ」が1980年代の文部省・科学技術会議・通商産業省などの審議に引き続き関与した実態を分析し,学術論文にまとめた.さらに,米国スタンフォード大学文書館所蔵のPaul Berg Papersを対象とした歴史的文献調査を実施した.本コレクションは,米国の実験規制を主導した科学者によるアーカイブである. 以上の結果,1970年代から1980年代にわたる日本の組換えDNA実験規制の歴史的過程は,米国の事例を参考にしながら次のようにまとめることができる.日本では,遺伝学者・分子生物学者・応用微生物学者らを中心とする「科学者グループ」が,日本学術会議・文部省学術審議会・科学技術会議ライフサイエンス部会・通商産業省化学品審議会など多くの審議において重要な役割をはたした.日本の実験規制は,科学者の自主規制を唱えたアシロマ会議の影響だけでなく,日本学術会議の組換えDNA実験への反応・米国のNIH指針に関する意見照会・OECD加盟国の規制審議・民間企業の工業生産に関するニーズなど,より多様な契機を反映して展開したことが明らかとなったのである. 本研究から,組換えDNA実験規制においては,日本・米国・欧州の歴史的事例が相互に影響を与えている可能性が強く示唆された.そのため,これまでの研究成果の基盤に立ち国際比較史研究に進むことを,今後の課題としたい.
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