研究概要 |
ヴァーチャル・リアリティ(VR)やIT技術の進歩に伴い,VR酔いや通信における時間遅れの問題等,人間と人工物の時間的協調の問題はますます重要な課題となってきている.そこで本研究では,歩行や会話,音楽に見られる人間が環境(他者を含む)と時間的に協調する能力に着目し,その協調過程の時間的特徴,及び,その協調能力を支えるメカニズムの解明を目的としてきた. 本年度は,視覚と聴覚を同時に用いた人間のリズム生成の特徴を観察した.これまで,テンポが異なるなど時間的構造が一致しない視聴覚信号が提示された場合,リズム生成は聴覚によって誘導されると言われてきた.しかしながら,本研究から,視覚信号のテンポが数秒に至る周期性を持って変化する時,視覚情報は聴覚情報と同時にリズム生成に影響を及ぼすことが明らかとなった.これは,視覚と聴覚がリズム生成における異なる役割を有することを示唆する.このことは,異なる時間構造を持つ視聴覚信号による二重的な人間の行動の誘導につながると考えられ,人工物の設計論の視点からも興味深い. 認知心理学の分野において,人間のリズム生成における様々なモデルが提案されてきたが,これらのモデルではリズム生成における感覚特異性や視聴覚統合の影響を説明することが困難であり,また,外部情報に完全に依存した受動的なモデルであるといった問題点があった.これらの問題を克服するため,現在,受動的に外部刺激のリズムに反応するだけではなく,自らも内的にリズムを生成し,内外の二つのリズムの相互作用から自己の運動リズムが創発されるという新たなモデルを構築中である.
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