本研究では、RHIC加速器での重心系エネルギー200GeVの陽子陽子衝突における重いクォーク(チャームクォーク、ボトムクォーク)のPHENIXおける測定、それを踏まえてRHICの重イオン衝突で生成された高温物質の研究がなされた。 RHICにおける陽子陽子衝突における重いクォークの測定は摂動論的QCDの良い検証となる。また重いクォークの測定は、RHICでの重イオン衝突実験において重要である。 PHENIX実験において重いクォークの測定は、DBハドロンの半レプトニック崩壊によって生じる電子(単電子)の測定を通じて行なわれてきた。この測定はチャーム由来の単電子とボトム由来の単電子を識別できないという欠点はあるが、比較的大きな崩壊比と少ないバックグラウンドの為に、有効な手段である。金金衝突では、陽子陽子衝突に比べ単電子の収量に大きな違いが有る事が知られていたが、この結果を理解するのに、詳細な議論を行うために最も重要なのは、単電子中のボトムクォークの寄与の決定である。 以上の目的のため、まず重心エネルギー200GeVでの陽子陽子衝突において単電子の横運動量分布が得た。次にPHENIX実験において初の試みである、チャーム由来の単電子の収量とボトム由来の単電子の収量の比の測定を陽子陽子衝突において行なった。この測定の根本はD->e+K-X崩壊におけるe+K-の部分再構成である。この測定により、RHICにおいて初めてチャーム由来の単電子、ボトム由来の単電子の横運動量分布が得られた。 摂動論QCDでの計算結果は、得られた実験結果を不定性の範囲内で再現し、摂動論QCD、及び破砕過程の理論手法の有用性が確認された。また、本研究において決定されたボトムの寄与を考慮すると、チャームだけでなく、ボトムが金金衝突で生成された高温物質中でそのエネルギーを損失している可能性が高い事が判明した。
|