本研究は、顕微鏡装置開発と、それを利用した基礎的物性の解明である。装置開発においては、今年度納入された、強磁場下電気伝導及びSTM測定用超高真空装置に組み込む予定であり、今後電気伝導測定用回路の製作を行う。また、近接場達成のために、金属針の設計及び製作が重要であるが、現在電解エッチングにより金属針を製作し、STM用としては問題なく動作することを確認している。次に、測定試料については、従来のGaAs/AIGaAsヘテロ構造以外にも、金属超薄膜、表面超構造に対象を広げるため、今年度はSiを基板とした表面超構造の基礎的構造及び電子状態を調べた。具体的には、以下の二つに集約できる。1.Si(111)7x7表面にNaを吸着することで7x7表面状態s1が消失することを利用して、純粋な7x7表面のs1バンドによる電気伝導度を測定した。さらに、MottのHopping理論にあてはめ、Siadatom間のホッピングで非常によく説明できることを明らかにした。2.Agをシリコン基板上に加熱蒸着して得られるSi(111)√<3>×√<3>-Ag表面にMnを吸着した表面の、原子構造及び電子状態を走査型トンネル顕微鏡及び角度分解光電子分光で調べた。その結果、Mnを低温で少量吸着させたときには、単原子程度のMnが点在し、si(111)√<3>×√<3>-Ag表面の自由電子的な放物線バンドが分裂する様子が観測された。これは、Mnatom周りに束縛された局在状態と混成したためと考えられるが、現在RKKY相互作用が下地の放物線バンドにどの程度変調を与えるかを計算中である。 上記の成果は、1.2.いずれも学会及び国際会議で発表を行い、1.は現在投稿論文準備中である。
|