本研究は、顕微鏡装置開発と、それを利用した基礎的物性及びその背後の物理機構の解明である。装置開発においては、強磁場下電気伝導及びSTM測定用超高真空装置を用い、電気伝導度の温度依存(室温からヘリウム温度)および磁場依存(0テスラから7テスラまで)を測定できることを確認した。 次に、昨年度着手した測定試料であるCo吸着Si(111)√7×√3-In表面の電気伝導を統計的に測定した。その結果、Co吸着前後で、電気伝導の温度依存性測定に顕著な違いが存在することを発見した。Co吸着前は通常の金属的な温度依存性を示すのに対し、少量(0.0003ML程度)吸着後は、80K程度以下の温度で抵抗が極小を示し、その後温度低下に伴い対数的な温度依存性を示すことが分かった。さらに吸着量を0.0013MLまで増加すると、温度低下に対して抵抗増大を示したのち、抵抗極大を示すことが観測された。さらに、その抵抗極大の温度は、Co吸着子の被覆率依存性に比例することが分かった。これらの振る舞いは、近藤効果とRKKY相互作用の競合に深く関係することが示唆される。そこで、Si(111)√7×√3-In表面が内因的にdisorderの多い金属表面であることに注目して、disorderにより増大される近藤抵抗を計算し、理論適用可能範囲では実験結果とよく一致することが分かった。さらに、よりCoが高被覆率である試料では、低被覆率試料とは異なり、室温から抵抗が増大することが分かった。これらは金属的な温度依存性を示したのち、対数的な抵抗増大を示すことが観測された。この現象は弱局在や電子間相互作用の効果では説明できず、非常にdisorderの強い系で起こると知られている近藤likeな抵抗であることが分かった。このような表面系における近藤効果やRKKY相互作用の研究を表面敏感電気伝導測定を用いて研究した例は初めてである。
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