レトロウイルスは、感染後に宿主によりその発現が転写レベルで抑制されるいわゆるgene silencingという現象がしばしば見られ、HIVやHTLV-1にみられる潜伏感染もこれを反映している。しかし、その分子機構は未だほとんど明らかにされていない。また近年、RNAを介した宿主-寄生体相互作用に関する新たな概念が提唱された。そこで本研究では、U3領域を標的としたsiRNA様分子が、染色体上のU3プロモーター近傍を標的としてウイルスの転写レベルでの発現抑制を誘導している可能性の追求から開始して、ウイルス感染防御におけるRNA干渉系の機能解明を目的とする。本研究では、マウス白血病ウイルス(MLV)のU3領域の発現制御を例に取り、ここにsmall RNAによる転写抑制(RdTS)が働くか否かを検証した。前年度までの結果から哺乳類細胞においては、RdTSはこれまでの報告のようなゲノムワイドに起きる現象ではないと考えられた。本年度はまず、HeLaS3のアッセイ系においてChlpアッセイを行い、転写抑制の標識であるH3K9diMeを観察したが、shRNA導入による上昇は見られなかった。またCMVプロモーターを標的として試験したが、転写抑制は観察されなかった。以上の結果は、前年度の結論を強く支持する。 近年レトロウイルスの制御とmiRNAの関わりが指摘されている。miRNAは内在性の20〜25nt程度の長さの非コードRNAであり、転写後レベルで多くの遺伝子を抑制し、レトロウイルスの制御だけではなく発生、分化、腫瘍形成等において重要な役割を果たしている。miRNAの包括的な機能解析のためには活性を長期間特異的に阻害する方法論が不可欠である。そこでmiRNA阻害ベクターを開発し、TuO RNAと名付けた。TuD RNAは高い効率と特異性で特定のmiRNAの活性を阻害する。癌を促進するOncomirとして知られるmiR-21に対するTuD RNAを発現させるとmiR21の持つ増殖刺激活性、アポトーシス抑制活性を強く阻害することが観察された。本成果はmiRNA研究に極めて有用であり、レトロウイルスの発現制御とmiRNAの関わりの解明に大きく寄与するといえる。
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