平成18年度夏季に得られたデータを用いて、生態学的基準(ecological benchmark)を土地利用の持続性と関連づけて確立するという本研究課題の最終到達地点に迫るべく、放牧地生態系における放牧傾度に沿った植生の変化において生態学的閾値の存在を世界で初めて見出した。この内容は、国際誌(Journal of Ecology)に投稿し、その結果、受理となった。本年(平成20年)一月、発表された。具体的には、気候条件・景観位置・植生のタイプ・放牧家畜の種類がサイト間で異なるにもかかわらず、一貫して植生の変化に不連続性が見出され、半乾燥地における植生の放牧に対する応答が本質的に非線形であることが示唆されたというものである。 平成19年度は、発表論文以外にも2編論文を執筆し、現在審査中である。 うち一編では、乾燥・半乾燥の放牧地における降雨変動性の高さが長期間禁牧の植生への効果を改変しうることを示唆した。しかし、長期間禁牧の改変が禁牧の土地管理オプションとしての有用性を必ずしも否定するわけではなく、むしろ、降雨変動性が高い放牧地においては放牧と気候の相互作用の存在が研究者および土地管理者の両者に予期されるべきであると結論づけた。 もう一編では、多様性と撹乱の関係は各景観位置における環境条件に依存すること、また、モンゴルの放牧地生態系における放牧による中規模撹乱は多様性維持の観点からだけでなく土地管理においても重要な役割を持つことを明示した。生態学理論において最も重要な理論の一つである中規模撹乱仮説の土地管理への適用性というテーマに取り組んだ研究は世界的にみても皆無である。
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