研究概要 |
哺乳類のY染色体上の精巣決定遺伝子Sryは胎仔期の未分化生殖腺内にあるセルトリ前駆細胞で雄特異的に発現し、精巣形成を誘導する。私はこれまで、Sryの発現開始直後にセルトリ前駆細胞内でグリコーゲンが蓄積することを報告したが、その生物学的意義ついては明らかになっていなかった。エネルギー要求性についての研究の結果、『ECM経路を介したSox9の発現維持機構』が性分化期の生殖腺において最もエネルギー要求性の高いmolecular eventであり、グリコーゲンはこのイベントを保障するために事前に蓄えられることが示唆された。本年度はこれまで蓄積した以上の結果を筆頭著者として一流国際学術誌に投稿し、採択された(Matoba et al.,Dev.Biol.,2008)また、20年度もうひとつの目的としてグリコーゲン蓄積を制御するSRY直下の因子を探索することを挙げていた。これまでの研究の結果、セルトリ前駆細胞でのグリコーゲン蓄積を制御するシグナルとして、Insulin/IGF-1-PI3K-AKT経路を見出しており、SRYがどのようにしてこのInsulin/IGF-1以下の経路を制御しているかについてmicroarrayを用いて解析を行った。熱処理により一過性にSryの発現を誘導出来るHSP-Sry transgenic mouse(Hiramatsu et al.,Development,2009)を用いて、SRYによって発現が誘導される因子群をmicroarrayによって同定を試みた。結果としてSryにより誘導される遺伝子を複数同定し、現在その遺伝子の野生型における発現パターンおよび機能解析をすすめている。今後、これら因子群がどのようにSRYによって制御されているか、またInsulin/IGF-PI3K-AKT経路にどのように関わるかについてさらなる解析をすすめることが求められる。
|