抗癌剤などの治療に関して、がんの進行度が非常に重要と考えられている。すなわち、より早期のステージのがんでは良好な生存率を示す。このことから早期診断の重要性が強調される。消化器がんのような粘膜がんは現在、内視鏡を用いた早期診断が行われている。この方法は白色光下での内視鏡医の目視による確認であり、医師の経験に左右される見落としがあり得ること、微小早期がんの発見には適していないことなどが問題として挙げられる。これに対し、蛍光を用いた方法は感度が良く微小な病変部を検出するのに非常に有用な方法であるが、現在臨床研究されている蛍光内視鏡法では、検出までに時間がかかること・光過敏症などの副作用といった問題点を抱えている。そこで本研究ではこのような問題を解決するために、蛍光を用いた簡便な早期がん診断のツールとしての蛍光プローブを開発することを目的とした。まずは正常細胞およびがん細胞の細胞内外の環境に着目し、ラット胃粘膜上皮細胞を用いてスクリーニングを行なった結果、フルオレセイン誘導体であるFDAが正常細胞に対しがん細胞で高い蛍光を持つことが明らかとなった。この要因としては、FDAの加水分解を行う細胞内エステラーゼのがん細胞内での充進および、加水分解産物であるフルオレセインの細胞外への漏出が寄与していることが明らかとなった。この機能要因に基づいてさらなるスクリーニングにより、さらに良好な結果を与える化合物として、フルオレセインのアクリル酸エステルであるFDAcrを得た。大腸癌モデルラットの大腸内にFDAcrを適用し、がん病変部から強い蛍光が得られることが確認できた。また酢酸を併用することでよりコントラストのある蛍光像が得られることが明らかとなった。今後はFDAcrをリード化合物として構造展開し、がんモデル動物を用いて構造の最適化を行うと共に新たなターゲットの探索を行って行く予定である。
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