先行研究の批判的検討およびフィールド調査から以下の研究成果を得、その一部を国際シンポジウム等で報告した。今後も学会、論文等で随時発表する 1.「砂漠化=過放牧」言説批判 中国内陸乾燥地における環境問題および環境政策において、「砂漠化=過放牧」言説が強く作用している。「砂漠化=過放牧」言説とに、牧畜民が家畜数を増加させて、砂漠化が引き起こすというものである。この言説にそって実施されている環境政策は、砂漠化の原因とされる家畜と牧畜民を排除するものである。 しかし、中国内モンゴル自治区において過放牧が引き起こされたのは、中国政府による移民政策によって、人口が増加し、増加した人口を養うために草原が大規模に開墾されたことによるものである。脆弱な自然環境にある開墾された草原は、干ばつの進行、土壌浸食や塩類集積により放棄された。この過程でモンゴル牧畜民の自然環境を維持管理してきた慣習や知識が失われた。環境悪化の原因を牧畜民に帰せる「砂漠化=過放牧」言説は、国家政策、グローバル化や気候変動といった社会環境および自然環境の変化という外的ファクターの存在を覆い隠し、環境破壊によって生活が破壊される牧畜民への視点を欠落させてしまうものである。 2.モンゴル牧畜民のIndigenous knowledge 自然環境と社会環境の変化を牧畜民の視点からまとめた。現場に暮らすモンゴル牧畜民を観察者として位置づけ、牧畜民の視点から気象データや統計資料を読み解く有効性が明らかになった。 次年度の課題は、牧畜民の経験知を衛星データに重ね合わせ、景観認識および自然環境の変化を読み餌くこと、自然環境および社会環境の変化にともなう農牧複合の変遷と牧畜民の戦略をライフヒストリーなど聞き取り調査から明らかにすることである。
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