先行研究の批判的検討およびフィールド調査、オーラルヒストリーから以下の研究成果を得、その一部を国際シンポジウム等で報告した。今後も学会、論文等で随時発表する。 中国内モンゴルの対照的な牧畜地域オルドスとエゼネの事例をもとに、中国の脱社会主義政策という激しい社会変動と「砂漠化」という激しい自然環境変化のなかで変動する牧畜社会を考察した。 オルドスは砂丘も広がる地域であるが、降雨量も比較的多くそれだけ農耕も古くから存在し、その分漢族人口の流入も多い地域である。他方、エゼネは流れ込む末なし川、黒河沿いに胡楊のオアシスが形成された極乾の砂漠地域で、遊牧生活を営む牧畜民のみが居住していた地域である。 家畜と土地私有化政策の下、急速に、従来の「五畜」を基礎にした遊牧型牧畜から、ヤギやヒツジの小型家畜中心の牧場型牧畜、畜産、及び、灌概普及による農業生産・家畜飼料生産の増大をもとにすすめられる農牧複合が進展している。それには砂漠化防止対策の名のもとにすすめられる生態移民政策や退牧還草政策がともなっており、中国の砂漠化防止対策が「脱社会主義政策」と表裏一体となって進んでいることが明らかになった。 これらの砂漠化防止政策は環境悪化の原因を牧畜民に帰せている。それによって、国家政策、グローバル化や気候変動といった社会環境および自然環境の変化という外的ファクターの存在が覆い隠され、環境破壊によって生活が破壊される牧畜民への視点を欠落させてしまうこと。同時に、過去50年の自然環境と社会環境の変化に独自に対応してきた牧畜民の経験と知識を喪失させるものであることを指摘した。
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