生体内に於いては、分子が特異的な相互作用により超分子構造を構築し、それらがさらに複合化、組織化することでより高次の超分子構造を形成し、様々な機能、物性を発現している。これらの各分子単独では発揮し得ない機能が生命を維持していく上で必要不可欠である。本研究では、分子の移動方向を規制することにより生体が様々な機能を発現させることに成功していることに注目し、人工系でのこのように運動方向の制御された系を構築し、生体系のシステムを化学の観点から解明することをきわめて重要であると位置づけている。その達成には環状分子と軸分子が非共有結合によって連結されたロタキサン状化合物を生体系モデルとしたアプローチ方法が、最も簡単でかつ独創的が高いと考えられる。2位にメチル基を導入したピリジニウム基をロタキサンの軸分子の二つの包接部位(ステーション)間に導入するこにより、環状分子であるα-シクロデキストリン並進方向或いは速度を制御することに成功した。二つのステーション部位の個々の熱力学安定性はほとんど変わらないのにもかかわらず、シクロデキストリンの進行方向と後退方向の速度には2倍程度もの差がみられた。このことはロタキサン上の環状分子の進行方向を速度論的に制御できた例と言える。このような挙動はシクロデキストリン及び軸分子の非対称で剛直な性質に由来すると考えられる。以上のことから、輪が一方向に並進するロタキサンの合成に成功した。
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