1)遺伝子改変マウスの解析 神経栄養因子を過剰発現するトランスジェニック動物であるEGFトランスジェニックマウスを用いて実験を行った。中脳におけるTyrosine Hydroxylase(TH)の蛋白量はワイルドタイプより有意に増加した。しかし、パッチクランプ実験で中脳ドーパミン神経細胞の電気生理学的性質を計測した結果、顕著な変化が無かった。上皮成長因子受容体であるERGRノックアウトマウスで中脳ドーパミン細胞の数と線条体におけるパリコーシティ量を統計した結果においても傾向としての顕著な差が見られなかった。 2)ヒト脳と霊長類におけるドパミン栄養因子シグナルの病理学的評価; 上皮成長因子受容体(Er b^-B1)には上皮成長因子やTGFアルファやHB-EGF類似成長因子やアンフィレグリンやベタセルリンが結合する。従来の齧歯類動物における研究にはErbB1が中脳領域に発現することを示していた。我々もパキンソン患者さんの線条体にErbB1の発現量が減少し、逆に統合失調症にはErbB1の発現量が増加したという報告を出した。今回我々は免疫組織学方法とIn situハイブリダイゼーション法を駆使して霊長類脳を用いて中脳内ErbB1とErbB4の発現を調べた。ヒトの死後脳において、ErbB1とErbB4のセンスとエンチセンスプローブで調べってきた。その結果、センスの方のプローブだけが黒質に強いシグナルが発現していた。80%以上のメラニンが含まれている細胞がErbB1シグナルを出した。これらのことで、ヒトのドーパミン神経にErbB1が存在すると示唆された。しかも、ヒトのドーパミン神経にErbB1ポジティブの方の発現確率も齧歯類動物より多い。これらの結果で、ヒトの中脳ドーパミン神経細胞にはEGFはErbB1のリガンドとして特殊な役割を担っていると提示された。又人と日本サルの中脳組織を用いて、In situErbB4ハイブリダイゼーション法を駆使してErbB4のメセンジャRNAがドーパミン神経細胞に発現することが証明できた。パキンソンの患者さんの死後脳組織で解析する方向で実験を行った。最終的に、パキンソン病の一つの病因解明や治療への貢献に繋がる可能性があり得る。
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