ここでは、第一論文(一部掲載済み)と第二論文(投稿予定)について、その概要を記す。 2006年度に法学論叢に掲載された論文である、『「大連立国家」の変容(一)(二)-現代ドイツにおける年金縮減改革の政治過程-』は、福祉国家研究として、また現代ドイツ政治研究として位置づけられる。本論分では、第五次コール政権と第一次シュレーダー政権の年金改革の政治過程を比較することで、二つの知見を得た。第一に、ドイツにおける年金改革を説明するには、拒否権プレイヤー論が有効であり、その場合、有力な拒否権プレイヤーとなるのは派閥、労組、連邦州であった。第二の知見としては、シュレーダー政権以降、合意型民主主義的政治運営が変化していることであり、従来の政治手法からの転換が観察されたことであった。 次に、2007年度上半期に投稿予定である、『現代ドイツにおける労使関係の展開とその変容-補完的制度・アクターによる労働協約の支援とその限界-』について述べる。第二論文では、1990年から2005年までのドイツにおける労使関係を事例とした。また、分析単位としては、労使団体と集団的労働法中心に、補完的制度・アクターとして、国家、マクロ経済制度、福祉制度、労働裁判所などの制度・アクターを扱った。本稿で得られた知見は、第一に、従来の定式に補完的制度・アクターを組み入れることで、ドイツにおける労使関係の新しい定式を描き出したことである。第二に、ドイツの労使関係については、従来の定式に依拠するならば、その変化(ないし自由主義化)が強調されがちであったが、本稿の定式を用いた場合、必ずしも自由主義化を意味する変化ばかりでなく、また連続性も散見されるということである。 今後は、ドイツ政治経済のマクロ経済制度に関する研究や、そのイデオロギー的基礎に焦点を当てた研究を順次行っていき、現代ドイツ政治経済の総合的研究、そして非自由主義資本主義の比較研究(日本との比較)を完成させる所存である。
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