遺伝子解析やゲノム解析により、黄色ブドウ球菌は過去に大規模な染色体の組み換えを起こしていることが判明した。この大規模な組み換えの詳細を明らかにすることが、今回の研究の目的の一つである。 コアグラーゼ陰性ブドウ球菌であるStaphylococcus haemolyticus JCSC1435株のゲノム解析により、その染色体上に82個の挿入配列(IS)が存在することが明らかになり、そのうち60個が機能していると推測された。ゲノム上にISを多く有するほどゲノムの再編成が起こりやすいと言われている。ゲノム配列が報告されているブドウ球菌属の中でS.haemolyticusが一番多くのISを持つ。このISがS.haemolyticusの染色体にどのような影響を及ぼすかを調べた。 S.haemolyticus JCSC1435を継代培養後、テイコプラニンあるいはセフチゾキシム10mg/Lで生育しない変異株をレプリカ法により選択した。染色体の変化を見るためにパルスフィールド電気泳動を行った。さらにPCR、サザンブロットハイブリダイゼーションにより変化領域を特定し、その部位の塩基配列を決定した。 得られた変異株のうち代表株12株のPFGEを行ったところ、染色体の80kbpから430kbpほどの領域が脱落していることが推測された。このうち3株が複製開始点を挟んだ2つの領域で変化がみられた。変化領域を特定したところ、2つのISSha1に挟まれた領域(266-320kbp)が欠失し、この2つのISと複製開始点を挟んで反対側の染色体領域とで逆位(455-535kbp)が起こっていた。その2つのISの隣には8bpのtarget duplicationが存在するため、この変異はISSha1の転移酵素により引き起こされていると推測された。 上記の結果をJournal of Bacteriology誌上に投稿し、受理されている。
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