遺伝子解析やゲノム解析により、黄色ブドウ球菌は過去に大規模な染色体の組み換えを起こしていたことが示唆された。さらに、ブドウ球菌属では複製開始点の下流に存在する菌種間で相同性がほとんどみられない領域oriC environが存在する。この領域にブドウ球菌属間で相同性が見られないということは、ブドウ球菌属以外から外来性遺伝子を獲得しこの領域に溜め込んできたのだと推測される。過去に我々は、臨床分離多剤耐性ブドウ球菌であるStaphylococcus haemolyticus JCSC1435株を継代培養すると、高頻度でoriC environの一部(80-430kbp)が脱落した変異株が得られる事を報告した。さらに、薬剤感受性化した他のJCSC1435変異株を調べたところ、oriC environ内に存在する2コピーの挿入配列に挟まれた領域が欠失し、この2つの挿入配列と複製開始点を挟んで反対側の染色体領域とで逆位が起こっていた。この結果を2007年4月にJournal of Bacteriology誌上で発表した。 これらoriC environ内で起こったゲノムの再構成がブドウ球菌に及ぼす影響を調べた。アミノ酸や糖の代謝が変化しており、ゲノムが脱落した部位に含まれる遺伝子が生化学的性状の変化に関与している事が強く示唆された。また、JCSC1435株はLB培地中にマンノースを添加すると濃度依存的に増殖が阻害される。JCSC1435株はマンノース特異的糖取り込み機構(PTS)を持っておらず、さらに、S.aureus N315株のPTSを欠落させるとマンノースによる増殖阻害が見られた。このことよりJCSC1435株が進化の過程でマンノース特異的PTSを欠失したために、マンノースの代謝に障害をきたしているのだと推測される。このことは、第52回日本ブドウ球菌研究会で報告した。
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