研究課題
ボツワナおよびナミビアでの現地調査から、以下の点が明らかになった。(1)サンの生活史に関する調査からは、過去には現在とは異なる遊動空間を利用していたことが明らかになり、記憶されている重要な出来事と結びついた地名を地図上で同定し、定住化にともなう環境利用の変遷の様態を解明した。(2)サン社会には婚外の性関係が頻繁に見られること、そしてそれにまつわる儀礼や超越者を呼び寄せる成人儀礼などが存在することが明らかになった。(3)グイ語と南コイサン語族のコン語とは、予想以上に多くの共通の特徴をそなえており、サン全体の移動と諸民族間の関係の歴史を再考するための、重要な手がかりのひとつとなることが明らかになった。(4)ヘレロとヒンバの生業にとっては、モパネは家畜の飼料となるばかりでなく、建材や燃料としても重要な役割を果たしており、また、宗教儀礼においても、象徴的な役割を担っていることが明らかになった。(5)ヘレロとヒンバが混住するカオコランドでは、土地の利用権をめぐる争いが、民族間のアイデンティティの問題との関連の上で起きており、民族間の対立は、ヘッドマンの任命や、総選挙のときの支持政党の選択といった国家レベルでの問題にも、深い関連をもっていることが明らかになった。(6)カデ地域では、多言語使用が急速に進んでおり、グイ語・ガナ語で継承されている伝統的な知識が消失し始めていることが明らかになった。しかしながら、研究を進めるにつれて時間の制約上、(1)サンの近隣に住む農牧民カラハリの調査、(2)ナミビアの農牧民オヴァンボの氾濫原農耕の調査、(3)GPSを用いてサンの地名の位置を測定する調査などが、十分にできなかったという反省点もある。
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