研究課題
平成8年度は2年目にあたり、初年度のアジアの中国雲南、ベトナム、およびタイの継続調査を行うと同時に、ヨーロッパとアフリカの調査を行った。その中で得た新しい知見は以下の通りである。まず、ヨーロッパ世界に住む人々にとっての森の位置づけが、東南アジアと根本的に異なる点である。ヨーロッパ人にとって、森はあくまでも人間の支配下に置かれる存在である。彼らは森を庭園化し、機能的にバカンスを過ごす重要な景観の一部と考える。従って森とそれを取りまく村落景観は、きわめて美しく保たれる。また林業的には徹底した機械化が行われている。平地林と単純な針葉樹新が多く、熱帯でみられる森の深みはない。従って、ヨーロッパの森で満足できない人々は、南の熱帯林へ出かけ、より深い森の世界--カミと精霊の宿る森を求める。ヨーロッパの人々の南の国へのエコツーリズムの原点は、このようなところにありそうである。一方、アフリカのケニアは、サファリを中心としたヨーロッパ型のエコツーリズムが国を支えている。これに対し、中央アフリカのカメルーンでは、小さな単位の部族社会がみられ、低地の森林地帯から山地を経て乾燥地帯に至るまで、明白な棲み分けがみられる。北からの牧蓄民の移動が大きな波となって南下してきているが、生態的条件によって限定される。熱帯多雨林地帯のピグミー世界は、東南アジアの狩猟採集民よりも隔絶性が高く、独自の世界を維持していることがわかった。人と資源の移動については、多島海にある東南アジアの有利性と、巨大大陸としてのアフリカの困難さを実地にみることができた。そして最も強く印象に残ったのは、アフリカを覆うヨーロッパの力の強さである。南北問題といっても東南アジアとアフリカでの状況は全く異なるのである。
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