研究課題
本年度は東北タイのウドンタニ等において、イスラム共同体6カ所の本調査を実施した。またはラオスのヴィエンチャンで2カ所、カンボジアのプノンペン等で9カ所のイスラム共同体の予備調査を実施した。東北タイにイスラム共同体が成立したのは、約90年前後からと推定されるが、今回の調査においてもこの事実を確認することができた。またその民族的源流がパキスタン人ムスリムであることも確認された。すなわちパキスタンからムスリムが東北タイに移住し、モスクを中心にイスラム共同体を形成しているのである。現在、ムスリムはタイ回籍をとり、タイ人との血液的同化も進み、生活習慣等タイ文化の影響を強くうけているが、その一方で、イスラムへの帰属意識も強いことが明らかになった。次にラオスでは、パキスタン人とインド人のムスリムが涅住するイスラム共同体1カ所と、カンボジアから移住してきたチャム人のイスラム共同体1カ所の調査を行った。後者の成立は1950年以後のことであるが、前者のそれは東北タイとほぼ同時期で、ムスリム移住の要因は商業のためである。そしてここでは、スンナ派と稱しつつも、イスラムの祭礼においてイスラム神秘主義のカ-ディリ-教団の始祖アブド・アルカディールを讃えるジクルを行う等、ス-ツィズムの要素が色濃く見られ、注目に値する。カンボジアの調査地は、プノンペンのアラブ系ムスリム居住区1カ所を除き、全てチャム人ムスルムのイスラム共同体である。現在のヴェトナム中、南部に存在したチャンパ王国のイスラム化したチャム人は、ヴェトナムの南進等により15世紀以降、カンボジアのコンポントム等へ移住してイスラム共同体を形成し、チャム人固有の言語や文化を継承しつつ現在に至っている。以上、イスラム共同体の実態について知見を得ることができた。
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