研究課題
1996年5月〜7月、本補助金により、昨年に引き続き中国寧夏回族自治区固原県において「中日聯合原州考古隊」を組織し、原州遺跡のうち北朝期墓域中の1墳墓を発掘。伴出した墓誌から北周の田弘墓と判明した。墓葬の構造は、地下式土室墓で、墓室からは人物18体分の壁画が出土した。彩色は赤(朱)・白(石灰)・黒(墨)の3色。北周期の壁画の出土は、中国でも2例目。群像表現としては、中国初という貴重な出土例となった。出土した墓誌から、「周書」「北史」など中国の史書にも記載されている、北周の柱国大将軍で大司空の田弘(65歳、575年歿)とその妻(妻の墓誌は失われており姓および歿年不明)の合葬墓で、575年葬と判明した。出土遺物は、東ローマ金貨4点、玉器9点、人と馬の彩色俑10個体分、金箔または多色のガラス珠多数、陶器20点、金箔彩色雲母多数など。このうち東ローマ金貨は、皇帝レオI世(457-474年)、ユスティヌスI世(518-527年)各1枚、ユスティニアヌスI世摂政期(527年) 2枚の計4枚が出土。それぞれ2ないし4の小孔があけられており、衣服に縫いつけて埋葬されたものと考えられる。最も新しい金貨は、527年に東ローマ帝国領内で発行されたもので、これが575年に中国で埋葬された人物の墓から出土しているのであるから、その伝播年代差は最大で48年。西方の文物がかなり迅速に中国にもたらされたことを実証する貴重な出土例といえる。また、金箔や多色のガラス珠は、6世紀後半のわが国の古墳から出土するものとはぼ同種のもので、当時の交流の実相を示す好例と考えられる。昨年発掘した、唐・史道洛墓(658年葬)とあわせ、正倉院宝物・法隆寺献納宝物・高松塚古墳壁画(四神図)などわが国古代文化との関連や、東ローマ帝国などからの西方文化の中国流入の実態の一端を解明できる数々の遺物が出土し、大きな成果をあげることができた。
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