研究課題
パキスタン北西辺境州ハザーラ地方シンキアリ村近郊に位置する仏教遺跡ザールデリーにおいて、第3次発掘調査を行なった。今回は、ストゥーパ区、僧院区からなる寺院遺構の内、ストゥーパ南東部、ストゥーパ区南側に設けられた寺院の主入口である南大階段の2ヵ所で発掘を実施した。ストゥーパ南東部の調査により、ストゥーパの平面プラン、基壇部の建築意匠などについて知見を得た。方形基壇は1辺25.4mで、ダイアパー式石積みによって築かれる。基部にカンジュールと呼ばれる多孔質の石灰岩を用いてモールディング装飾を施した基壇の形状は、他のガンダーラ仏教寺院のそれとほぼ共通する。当初は、基壇壁全体を漆喰塗りで仕上げていたが、現状では剥落し、その痕跡をほとんど留めない。本ストゥーパは、約80m四方のプラットフォーム中央部に造営されている。昨年度の調査で、ストゥーパの拡張工事(増広)に関わると見られる銘文を記した石板が発見されているため、数次に亘る造営が行われたか否かの資料を得ることを目的として、ストゥーパ基礎部分を調査した。その結果、基礎部分築造→プラットフォームの整地→現ストゥーパの造営が、一連の作業としてなされていたことが判明し、基礎部の調査からは増広が行われたことを示す資料は発見されなかった。ガンダーラの仏教寺院では、石やタイルを用いて寺域を舗装することが一般に行われる。本寺院では東階段の周囲に舗装敷石が残存していたが、その他の区域では舗装の痕跡が発見されなかった。南大階段は、東西幅9.8m、南北長10.5mで、ステップ1段の高さは約40cmである。階段とプラットフォームの接合部には方形の突出装飾がつけられており、その部分では東西幅13.9mを計測した。主な出土品として、ストゥーパ東階段横から、軒蛇腹に取り付けられていた建築部材の片岩製肘木が数点発見された。
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