研究課題
昨年度調査フィールドとして選定したアユタヤ遺跡、スコータイ遺跡において、レンガ造遺跡の劣化状態、劣化原因、劣化過程についての詳細な調査を行った。特に、雨水、地下水とレンガの劣化との関係について詳細な調査を行った。アユタヤ遺跡にシミュレーション実験を行うためのレンガ造小構造物を造った。この小構造物の含水率の変化と、地中の含水率の変化との関係を調査するために、地中に自動継続含水率計測装置を設置した。2カ所の調査フィールドに、無人・無電源・自動記録環境計測システムを設置して、環境条件(温度、湿度、雨量、日照強度、レンガ表面温度、レンガ内部温度)を測定し、解析した。スコータイ遺跡の重要な大仏であるスリチュム寺院大仏は、生物(苔、藻類等)の繁殖により黒く汚れている。この大仏のクリーニング後の保存処置について、実験を開始した。以上の調査研究の結果、本年度得られた知見は以下の通りである。・レンガ造遺跡の構造的崩壊の大きな原因の一つに、構造物下部のレンガの塩類風化による劣化がある。・レンガの塩類風化の主原因は、雨水の滞留によるレンガ内への水の浸透であり、雨期と乾期があるため、レンガの湿潤、乾燥が極端に起こることが重要なファクターである。・雨期においても雨は短時間(1〜2時間)に集中して降り、その後晴れるという状況にあり、やはり湿潤、乾燥が繰り返される。・スコータイ遺跡スリチュム寺院大仏の表面(漆喰面)は、生物の繁茂の影響で劣化し空隙率が大きくなっていた。その結果、含浸強化用あるいは生物繁茂防止剤の浸透が極めて良好であった。これら保存処置の効果については、雨期を経た後の新たな生物の繁茂の状況によって判定する予定である。