研究課題
本研究の目的は、現代アボリジニ社会における知識・情報の分布・継承の様態について、先住民土地権の制度化(1977年北部準州土地権利法の運用、1994年先住民土地権原法の施行)という状況に応じて新たに生じつつある動向に注意しつつ、民族誌的な記述と分析を試みることである。平成7年度は、具体的な方法として、国立民族学博物館所蔵の木皮画資料250点のうち100点を選び、その写真を各自現地に持ち込んで、そこに描かれている神話の語りを聞き取る調査を行った。この場合、木皮画の作者だけでなく、その神話を認知しているクランの成員、あるいは近縁の住民がインフォーマントである。従来は、同一の神話として一くくりにされている木皮画の語りに、語り手によって微妙な差異のあることが確認できた。個々の語りには、先住民土地権の制度化に伴って、重点の置き方の変化、ジェンダーの問題、住民側の土地権意識の差異、などが反映していると考えられる。また、観光地と隣接する地域、保護区時代から続く隔離地域、鉱山開発に関わって航空アクセスの発達した地域、など、特性の異なるア-ネムランドの各地域の特性も語りに反映されていると予想される。調査結果の分析においては、これらの地域性の把握も考慮する。さらに、言語学的調査とともに、父系だけでなくクラン間の交錯といった神話伝承システムの解明にも留意して分析を進める。調査結果は、知識伝承とその変化を総合的に記録するために木皮画1点に複数の語りをリンクさせる構造のデータベースとして組織化する。本研究で開発するデータベースは、オーストラリアの各研究機関や美術館で構想されているアボリジニ芸術データベース構築との連係も考慮し、インターネットでの公開も視野に含める。
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